オフショア開発ビジネスの未来を考える #TechFunオフショア

安い人件費によるコストメリット

あなたの企業がもしこれを最優先に考えており、それ以上の戦略を持っていないのであれば、オフショア開発事業は失敗するので進出は控えた方が賢明だ。

これは、ASEAN10ヵ国中8ヵ国を視察し、4年前にミャンマーに現地法人のIT企業を立ち上げ、年間の半分近くをミャンマーで過ごす筆者が、オフショア開発検討中のシステム開発会社からアドバイスを求められた際に真っ先に伝えることだ。

もちろん、当社もホームページなどで、オフショア開発活用のメリットとしてコストダウンは謳っている。しかしそれは、クライアント企業に向けてわかりやすく伝えるためであり、それのみではすぐに行き詰まることは百も承知の上での宣伝句にすぎない。

では、オフショア開発進出の目的はどうあるべきか、また今後のオフショア開発ビジネスはどうなっていくのか。これらについて、オフショア開発の変遷を大雑把に紐解きながら説明をしていく。

コストメリットだけを求めるなら進出すべきではない
英語でのコミュニケーションを推進
オフショアを、グローバル人材の確保拠点に
優秀な人材は日本人と同じ給与体系にすべき
現地に根ざした市場開拓でビジネスチャンス拡大

ミャンマーの街並み

オフショア開発の変遷

以下、簡単にオフショア開発の変遷について記述する。

中国ブーム(1990年代後半〜2000年代前半)

世界のIT先進国がこぞって中国に進出してきた中で、日系企業は中国人ITエンジニアの育成に過剰なまでに力を注いできた。ITや業務に関する知識教育もさることながら、日本語教育についても、専用の日本語教師を現地に送り込むなど、詳細設計からコーディング、単体試験までワンストップで行える体制構築を推進してきた。
さらに、中国人ITエンジニアを日本に数年間送り込み、技術指導、マネジメント教育、日本語教育をみっちり行った上で、帰国後にはチームマネジメントとブリッジSEを担ってもらうといった取り組みも行うなど、その熱の入れようは目を見張るものだった。ただ皮肉にも、こうした試みが中国経済の発展に寄与したこともあり、給与などの人件費、地代家賃、駐在員の生活費などほとんどすべてのコストが大幅に上がってしまった結果、コストダウンのみを狙ったオフショア開発は儚くも破綻をし、 オフショア拠点から撤退または規模縮小を余儀なくされた。

ただし、一部の企業は、日本語が堪能かつ日本特有の業務知識を熟知している優秀な中国のITエンジニアとともに、 上流工程から開発に至るまでワンストップで対応できるソリューションを提供することで、コストダウン以外のメリットを押し出したビジネス展開で、現在も成功し続けていることを付け加えて置かねばならない。

ベトナムを筆頭とするASEANブーム(2000年代中盤〜現在)

コストダウンを狙った中国オフショア開発が事実上破綻した後、その矛先はベトナムを中心とするASEANに移る。工場などの生産拠点としてはタイが有名だが、オフショア開発においては、ベトナムが世界一といってもいいだろう。日本、韓国からは言うに及ばず、欧米からも多数のIT企業がオフショア開発拠点確保のために進出してきている。そんなオフショア開発の隆盛を極めているベトナムだが、中国でのオフショア開発ブーム時とやや異なっている点としては、日本からは大手企業のみならずベンチャー企業も多数進出している点ではないだろうか。

これには、日本国政府による助成金の給付制度、日本国内でのIT人材確保の難易度が著しく上がったことなどが挙げられる。また、そんなベトナムでも早くも人件費の高騰、人材の奪い合いが始まり、次なる進出先として、フィリピンのセブ島、ミャンマー、カンボジアなどが注目を集めており、こちらにもすでに多くの企業が進出している。

オフショア開発の現状と問題点

今まで私が体験してきことや同業者から実際の話として直接聞いたことを基に、 様々なオフショア開発の問題点の中でも重大と考えるものを記述していく。

目先のコストメリットは一過性

先述の通り、中国ではコストメリットを追い求めるだけのオフショア開発は長くは続かなかった。
もちろん今でも中国に拠点を構えており、日本本国とうまく連携を取りながら事業メリットを出し続けている企業もある。しかしそれは人件費や物価に依存したコストメリットを狙ったオフショア開発と言えるものではないはずだ。
だとすれば、ただ単にコストメリットを狙ったオフショア開発は、その進出国の経済発展とは裏腹にコストメリットは減退していき、進出後そう遠からぬ将来行き詰まる可能性が高い。ましてや、IT未経験者を現地採用して、技術および日本語をゼロベースから教え、さらには日本への渡航費や日本人の新卒水準の給与を数年間負担しながら日本式の仕事のやり方を仕込む投資を重ねていけば、その回収はかなりの確度で困難となっていく。

日本語教育、日本式成果物

IT教育ならまだしも、なぜ日本語教育や日本式の仕事のやり方をそこまで仕込む必要があるのか。

それは、日本人側とのコミュニケーションが日本語となるケースが圧倒的に多いためである。
現地スタッフに渡す設計書や納品成果物についても日本語が指定されている場合も少なからずあり、オフショア開発企業にとって日本のクライアント企業の要望を満たすためには、現地スタッフへの日本語教育は避けて通れない投資となっている。
中国からベトナム、そしてミャンマーやカンボジアにもビジネス展開を試みる場合、すべての国のITエンジニア対して日本語を教え込むことが本当に非効率であることは想像に難くないであろう。

ラボ契約によるトラブル

当初は請負契約がメインであったが、ここ5年ほど前からラボ契約という日本国内の取引においては馴染みの薄い形態が浸透していきている。
ラボ契約とは、クライアント企業がオフショア開発会社の現地スタッフをある一定人数確保するという工数ベースの契約のことで、基本的にはクライアント企業にて現地スタッフへの詳細な指示含めてプロジェクトをフルコントロールしていく。

ただ、現地スタッフが全員日本語を理解できるケースは稀であり、一部の日本語が堪能な現地スタッフが、クライアント企業のPMと現地スタッフとの間をブリッジSEとして取り持っているケースがほとんどだ。この契約のメリットとしては、ウォーターフォール型で開発しなくてよいので、仕様変更などに柔軟に対応できる、ということが挙げられる。

しかしながら、プロジェクトの成否はブリッジSEの日本語能力というよりも寧ろマネジメント能力に依存する部分が大きく、そのような優秀なブリッジSEの数は正直多くない。また、この契約形態の落とし穴としては、請負契約ではないためオフショア開発会社には瑕疵担保責任、つまり成果物の品質保証については契約上原則免除されている。
クライアント企業としてみれば、それが理由で品質が上がらなくても仕方がないと寛容になることはあり得ず、オフショア開発会社との間でトラブルになったケースも少なからずあるようだ。

Tech Fun Myanmar 開発会議

オフショア開発の未来像

では、オフショア開発は今後どうすべきなのか。

このビジネスには未来はなく、イナゴのように次から次へと食い尽くしては次なる場所を求めて移動していくしかないのか。否、現状の問題を真摯に受け止めつつ、次のように大胆に視野を広げれば、大きなチャンスは存在すると私は考えている。

日本語依存からの脱却

オフショア開発企業(日本法人)、現地法人、クライアント企業の3社間の共通言語を日本語にすることにより、ビジネス上計り知れないデメリットがあることに気づいていない企業が多く存在する。

ご存知の通り、日本語は日本でしか通用しない言語だ。また、日本市場は世界的にはいまだ大きな存在価値があるが、移民政策など抜本的対策を取らない限り、人口減少とともに今後徐々に衰退していくことは避けて通れなさそうだ。にも拘わらず、日本語教育、日本特有の仕事の進め方など、日本という特殊な環境に依存した教育投資をやめない企業がなんと多いことか。私は特段、欧米中心主義的思想を持ち合わせているわけではないが、海外進出した際には、世界的に汎用的な自然言語である英語を使うべきだと考えている。たとえそれが日系クライアント企業向けのシステム開発であっても、だ。

ほぼ100%の国において、日本語の教育を特別に受けた現地スタッフを除けば、皆日本語より英語の方がはるかに得意であることは間違いない。となれば、我々日本人の英語力さえ強化すれば全く問題ないのである。また、英語さえ使えれば様々な国の人々とビジネスを展開できるチャンスが生まれるわけであり、このメリットを捨ててまで海外の人に日本語を教えるのはなんとナンセンスなことか。

クライアント企業含めて、海外の人と一緒に仕事をする際には、日本語という特殊言語を捨て去る勇気を持って欲しいと切に願う。

優秀な人材の確保

驚くことに、いまだに日本人がアジアの中で最も優秀な民族だと思い込んでいる人が少なからず存在する。こんな井の中の蛙な考えは今すぐ捨てた方がいい。こんな考えを持っている限り、間違いなく日本は世界から取り残されていく。

アジア圏、ASEANにも優秀な人材はたくさん存在する。オフショア開発拠点を持つ、ということは、優秀な人材を確保する拠点を持つ、ということでもある。決して上から目線ではなく、我々が先んじていることについては、現地スタッフに教え、逆に彼らの考え方やビジネス習慣について耳を傾けると、思わぬヒントに巡り合うこともある。
そして優秀な人材には日本人と同じく能力に見合う報酬を払うべきだ。初期段階においては生活コストの差額を考慮したとしても、ゆくゆくは日本法人の全スタッフ含めて、給与は場所や国に影響されることなく、グローバルスタッフとして能力評価で決まっていくべきである。

市場開拓

せっかく外国に進出したわけなのだから、その国に根ざしたビジネスをある程度考えていくべきではないだろうか。
SIでもWebサービスでもスマホアプリでも、現地固有のニーズは必ずある。日本にいては決して接点を持つことができない企業にアプローチすることができるはずであるし、その国ならではのサービスやアプリも考えることができるはずである。

これらを推進していくことで、日本以外の市場開拓につながっていくことになるのではないだろうか。日本からの仕事のみをあてにしたオフショア開発ビジネスには未来はない。

オフショア開発ビジネスを考える

様々な国に行くと、日本という国、日本人という民族の特性がよくわかる。日本のサービスクオリティーはやはり世界一だと感じる。
店員や施設係員の細やかな気配りとしての「サービス」はもちろん、公共施設のコンピュータシステムによる「サービス」も圧倒的だ。

例えば電車の券売機。これだけ他社間で複雑に相互乗り入れしている国も珍しいと思うが、きちんと割引含めて計算され、わかりやすいUIで迷うことなく切符が買える。しかも高額紙幣も使え、つり銭切れも滅多にない。日本では当たり前の「サービス」だが、他の先進国では、高額紙幣は使えなかったり、案内がわかりづらかったりして不便を感じることが多い。

一方で、鎖国根性は未だ抜けきれておらず、個人レベルの真のグローバル化は非常に遅れている。
システム開発業界において、ASEANだけに止まらず、欧米などのIT先進国に対して日本の保有する技術力ときめ細かさ、そしてサービス全体としてのクオリティーを展開することができれば、オフショア開発という言葉の持つ意味自体が、単なる海外でのコストダウン開発から変わってくると思う。

日本のシステム開発サービスクオリティーを世界のITエンジニアに共有しつつ、世界のクライアント企業のニーズに応えることー これこそ、オフショア開発ビジネスが目指すべき新しい未来像ではないだろうか。

ミャンマーの街並み2

このコラムの筆者

Tech Fun株式会社 代表 笠井達也

Tech FunはITの力で世界を豊かにする総合サービス企業です。
IT研修スクール「TechFun.jp(https://techfun.jp/)」、eラーニングプラットフォーム「StudySmile(https://studysmile.com/)」のほか、ミャンマーオフショア開発(https://offshoring.techfun.co.jp/)、スマートフォンアプリ開発、Webシステム開発、SIサービスを展開しています。